基礎ゲンゴロウ学

ゲンゴロウの自然史

分類と多様性

国内でゲンゴロウといえばゲンゴロウ科とコツブゲンゴロウ科の総称になっている。

確かに成虫の形態や行動は良く似ていて、実際コツブゲンゴロウの仲間は比較的最近までゲンゴロウ科の亜科とされていた。しかし幼虫の形態が判明するとゲンゴロウ科のものとかなり違っていて科を分けるべきと考えられるようになり、これはその後の分子系統解析でも支持されている。

分類学的にはこの2つの科をまとめてゲンゴロウ上科 Dytiscoidea と名付けている。 ただしゲンゴロウ上科には他に 日本には分布していない4つの科 が現存しているので、ゲンゴロウ科とコツブゲンゴロウ科をまとめていわゆるゲンゴロウと呼ぶならばこの4科も含めて合計6科で構成されるのがゲンゴロウ類だろう。

系統図
ゲンゴロウ上科の系統

系統的にはコツブゲンゴロウ科と南米の Meruidae が近縁で、ゲンゴロウ科を含む残りの4科と姉妹群を成すと考えられている。つまり外見的にはゲンゴロウの仲間に見えない オサムシモドキゲンゴロウ科 の方がコツブゲンゴロウ科よりもゲンゴロウ科に近いということになる。科が分けられているので当然ではあるが、コツブゲンゴロウ科とゲンゴロウ科は成虫の見た目の印象ほど近縁ではない。

上位分類
甲虫目の上位分類

さて、ゲンゴロウは甲虫の仲間だが、甲虫目は4亜目からなる。そのうちのオサムシ亜目食肉亜目Adephaga )は便宜的に陸生種の一群(陸生食肉亜目:Geadephaga)と水生種の一群(水生食肉亜目:Hydradephaga) に分けて考えられている。ゲンゴロウ上科はこの水生類に含まれ、他にミズスマシ科、コガシラミズムシ科が含まれる。

つまりゲンゴロウ類に最も近縁な昆虫はミズスマシやコガシラミズムシで、その次は陸生食肉亜目のゴミムシやハンミョウの類となる。これらがいつ、どういう順番で分化していったのかはわかっていないが、恐らく水際に生活する陸生のゴミムシなどから水生種が派生したのだろうと推測されている。

水中で生活する甲虫といえばゲンゴロウの他にガムシがよく知られこちらも繁栄しているが、ガムシはオサムシ亜目ではなく、カブトムシ亜目(多食亜目:Polyphaga)になり類縁関係はかなり遠くなる。

円グラフ
ゲンゴロウ上科の種数

世界で知られるゲンゴロウ科は Nilsson and Hájek (2019a) では約4500種とされている(ただし正体不明種も多い)。一方コツブゲンゴロウ科は Nilsson (2011) によると258種で、ゲンゴロウ科とは桁がひとつ違う。さらに 残りの4科 は1~6種で、ゲンゴロウ上科の中ではゲンゴロウ科の繁栄ぶりが突出しているのがわかる。

海洋に進出していないのはほとんどの昆虫類と同様だが、その生息圏は南極を除く全ての生物区に広がり、大洋島、北緯80度の北極圏、標高4000~5000mの高山、汽水域、塩湖、そして地下水を生活の場とするものもいる。

ゲンゴロウ科は種数が多く生息環境も多様なので大きさの違いも著しい。一般的な大型種は体長30~40mm、小型種は1.5~2.0mmと20倍程の違いがある。また、世界最大のゲンゴロウは南米の Megadytes lherminieri (Guérin-Méneville, 1829) といわれていて、体長は50mmに迫る。最小の方はゲンゴロウ科ならオーストラリアの地下水性種 Limbodessus atypicalis Watts & Humphreys, 2006 と思われ、体長0.90~0.92mm*と砂粒ほどの大きさしかない。ゲンゴロウ上科の中なら MeruidaeMeru phyllisae Spangler & Steiner, 2005 が0.85~0.90mm*で今のところ最小のようだ。

*体長はそれぞれ Watts and Humphreys (2006) , Spangler and Steiner (2005) より引用。