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基礎ゲンゴロウ学

ゲンゴロウ科

種名索引

ツブゲンゴロウ亜科 Laccophilinae

2族認められる。

  • Agabetini
  • Laccophilini

前者は Agabetes Crotch, 1873 1属で、1種が北米東部、もう 1種がイランという極端な分断分布をする遺存種。外見的にはマメゲンゴロウ類のように見えるが、産卵管の形状 ( Burmeister 1976 ) 、幼虫形態 ( Alarie et al. 2002 ) 、分子系統 ( Miller and Bergsten 2014 ) から Laccophilini と近縁とされる。(ただし、 Ribera et al. (2008) の分子系統では否定されている。)

族 Laccophilini

極地域を除く世界の大部分に分布する。 13属認められているが、分布が極端に狭かったり、1種~数種で構成されている属も多い。 470種近く知られている。

日本産 2属。

Japanolaccophilus Satô, 1972

キボシツブゲンゴロウ属

日本固有属で 1属 1種。

唯一の種であるキボシツブゲンゴロウは記載当初、東洋区からよく知られる Neptosternus Sharp, 1882 とされた。しかし前胸背板後角、前胸腹板突起先端の形状が明瞭に異なり新属が設けられた。また幼虫形態に基づく系統解析では成虫外観の似ている Neptosternus ではなくツブゲンゴロウ属に近縁という ( Alarie et al. 2023 )。

現生種ではないが、バルト琥珀中から見出された小型種が本属と同定され Japanolaccophilus beatificus Balke & Hendrich, 2019 の名で記載されている ( Balke and Hendrich 2019 )。

Japanolaccophilus niponensis (Kamiya, 1939)

キボシツブゲンゴロウ

北海道~九州に知られるが、九州本土の最近の記録は無い。

古い図鑑やリストでは種小名が nipponensis と記述されていることが多かったが、原記載( 神谷 1939 )は niponensis で引用には注意が必要。

Laccophilus Leach, 1815

ツブゲンゴロウ属

極地域を除く世界の大部分に 290種程知られる。日本産 14種。

日本産は止水性の種がほとんどだが、海外には流水性の種も多いらしい。

Laccophilus difficilis Sharp, 1873

ツブゲンゴロウ

生息地でのツブゲンゴロウ

北海道から沖縄県まで広く分布し、かつては水田やため池に普通に見られたが2000年ころを境に激減した。特に南西諸島では最近の記録が無いようで絶滅が危惧されている。

海外では中国、朝鮮半島、ロシア沿海州から知られるが、海南島を含む中国東半部には広く分布するのに対し台湾からの記録はない模様 ( Nilsson and Hájek 2024b ) 。

Laccophilus hebusuensis Watanabe & Kamite, 2020

ヒラサワツブゲンゴロウ

Laccophilus kobensis Sharp, 1873

コウベツブゲンゴロウ

Laccophilus yoshitomii Watanabe & Kamite, 2018

ニセコウベツブゲンゴロウ

生息地でのニセコウベツブゲンゴロウ
ニセコウベツブゲンゴロウ - 後肢を折りたたんで前中肢を使って匍匐中

コウベツブゲンゴロウにはオス交尾器に多型が見られることが以前から知られていた ( 中根 1959 , Kamite et al 2005 ) が、 Watanabe and Kamite (2018) はそのうちの 2つの型で体長や上翅斑紋の変異に有意な差があることに気付きニセコウベツブゲンゴロウを記載した。さらに、 Kamite et al (2005) に記されていたもう一つの型についても Watanabe and Kamite (2020) が独立種として記載、ヒラサワツブゲンゴロウと名付け、長年の懸案はとりあえず決着した。

分布についてはコウベツブゲンゴロウ (本州中部以西、四国、九州、八重山諸島;中国、韓国)、ニセコウベツブゲンゴロウ (本州、九州)、ヒラサワツブゲンゴロウ (東北、関東) とされている ( Nilsson and Hájek 2024bWatanabe and Kamite 2020 ) が、最近までコウベツブゲンゴロウ 1種として認識されていたため実態がどうなっているかは現状では断言できない。実際ニセコウベツブゲンゴロウ記載後、過去にコウベツブゲンゴロウとして報告されていたものがニセコウベツブゲンゴロウと訂正される例が相次いでいる。

今のところこれら 3種が複数種同所的に見られた例は知られていない。

Laccophilus lewisioides Brancucci, 1983

ニセルイスツブゲンゴロウ

佐藤 (1996) によって秋田県から見出され国内にも分布することが知られることとなった。東北から関東にかけて点々と分布するが極めて局地的で、鳥取県からも記録されている。中国 "Tien-Sin" (天津?)を原記載地に韓国、ロシア沿海州にも分布するがやはり分布は希薄。

次種と同所的に見られる例も多く一見よく似ているが本種の方がやや小さくオス交尾器は明らかに異なる。 佐藤 (1996) は上翅斑紋の違いも指摘しているがこれには変異も見られるようで正確な同定にはオス交尾器を検する必要がある ( 中島ほか 2020 ) 。

Laccophilus lewisius Sharp, 1873

ルイスツブゲンゴロウ

原記載地は神戸で本州、四国、九州から広く記録がある。ただし分布にかなりムラがあり空白地域も多い。海外では中国東半部に広く分布するが韓国の記録はニセルイスツブゲンゴロウの誤同定らしい ( Lee and Ahn 2018 )。

Laccophilus shinobi Yanagi & Akita, 2021

イガツブゲンゴロウ

2021年に三重県から記載されたルイスツブゲンゴロウに極めてよく似た種。現時点では原記載以降の公表された情報はなく、知られた生息地は原記載地である農業用のため池一か所のみ。

特異なのは後翅に短翅型から長翅型まで連続的な変異が見られ、長翅型でも翅脈含め全体が弱々しく個体群全体で飛翔能力が欠如している可能性が高い点である。この点だけをとらえるとルイスツブゲンゴロウの分散多型のひとつとも考えられるが、上翅斑紋やオス交尾器、幼虫の頭部形態に有意な差があるようなので、孤立した個体群が急速に分化している過程 を見ているとも考えられる。近隣に類似の個体群はないのか、生息地のため池が歴史的にどのように管理されてきたのか等を含め種の分化を考える上で興味深い存在である。

Laccophilus vagelineatus Zimmermann, 1922

キタノツブゲンゴロウ

日本からの初記録は Kamite et al. (2005) による静岡県のものだが、その後茨城県からも記録された( 柳田 2012 )。他県からの報告は現在も無く、発見後急速に個体数が減少した点、そしてどちらの地域も中国からの輸入魚が多い点から中国からの人為移入種の可能性が指摘されている( 疋田 2015 )。

ロシア沿海州から記載され、中国東部、韓国から知られる。

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