基礎ゲンゴロウ学

ゲンゴロウ科

種名索引

マメゲンゴロウ亜科 Agabinae

以前はヒメゲンゴロウ亜科に含められていたが、 Millar (2001) は独立の亜科とした。これはその後の系統解析でも支持されている ( Ribera et al. 2008 , Miller and Bergsten 2014 )

最近まで Agabini 1族でまとめられていたが、現在は 3族に分けられている ( Miller and Bergsten 2014 , Toussaint et al. 2017 ) 。 日本産は 2族。

族 Agabini

全北区に広く分布するが亜熱帯から南半球にはわずかな種がいるのみで、分布パターンとしては Platynectini と相補的な関係になっている。 Nilsson (2000) によって大幅に見直されたが形態によるもので、その後の分子系統の研究とは合致しない ( Ribera et al. 2004 ) 。日本産 3属。

Agabus Leach, 1817

マメゲンゴロウ属

全北区に広く分布し、一部の種は熱帯域からも記録されている。世界に 180種程の大所帯。 Nilsson (2000) は 3亜属に分けている。

  • A. (Acatodes) Thomson, 1859
  • Agabus s. str.
  • A. (Gaurodytes) Thomson, 1859

ユーラシア東部では A. (Acatodes) の勢力が優勢で日本にいるマメゲンゴロウ属も 1種を除いてこの亜属に所属する。

Agabus daisetsuzanus Kamiya, 1938

ダイセツマメゲンゴロウ

戦災でタイプ標本が焼失し、難解なグループでもあるため分類はおろか実体も不明の種。

中根 (1964) は大雪山のマメゲンゴロウ類似種に上翅の網状印刻の網目が円形のものと多角形のものがあり、前者は A. japonicus の高地型と同じもの(後に A. japonicus ezo として記載)、後者が A. daisetsuzanus に該当すると考えたようだ。 中根 (1989) は再検討しこの多角形網目のものをツヤマメゲンゴロウ Agabus congener (Thunberg, 1794) の無光沢型と判定したが、 中根 (1990b) によると該当する標本(♀)が Nilsson に Agabus thomsoni (J. R. Sahlberg, 1871) と同定されたという。なお、 Satô and Nilsson (1990) は北千島産の標本(1♀)を同様に A. thomsoni として報告している。

ただし、 Nilsson and Hájek (2024b) では A. thomsoni の分布に日本は入っておらず、 A. daisetsuzanusA. congener のシノニムとしている。

森・北山 (2002) のダイセツマメゲンゴロウの記載は中根の多角形網目のものと一致しそうで、これが A. thomsoni の可能性はある。

Agabus japonicus Sharp, 1873

マメゲンゴロウ

本種は広い体幅と太短い後肢が特徴の japonicus-group とされる ( Zimmermann 1934 ) 。 Nilsson and Hájek (2024a) によるとこのグループは中国とその周辺から 12種とされるが、その多くは古くに記載されたまま十分な再検討がなされておらず強く見直しが求められる。

泳ぐマメゲンゴロウ

北海道から南西諸島まで知られ、貧栄養な止水や河原の水たまりから水田やため池まで多彩な環境で見られる普通種。ただし沖縄県での記録は少ないようで実態がどうなっているか興味深いが、本土では普通種のためか注意されていない。

海外ではロシア沿海州、サハリン、千島、中国、韓国。 Zaitzev (1953) ではインド北部やベトナムの名もあげられているが、上記の通りこのグループの分類はかなり怪しいので実態は不明。

国内の高標高地から 2亜種が記載されている。

A. japonicus shiroumanus (Nakane, 1959) はメス背面の印刻が強く光沢が鈍く、上翅が黄褐色という特徴で白馬岳を基産地に、後に A. japonicus ezo Nakane, 1989 も同様の特徴を持つとし大雪山から、それぞれ記載された。記載文 ( 中根 1989 ) には両者の差異は記述されておらず、本州、北海道という生息地の違いで名付けたものかもしれない。

さらに Nilsson et al. (1995)A. japonicus ezo のオス交尾器端半が、他の A. japonicus と比較してより強く広がるとして独立種とみなした。

上記の通りこの 2種は主にメスの背面光沢の有無によって基亜種と分けられたものだが、この特徴は性的二型として多くのゲンゴロウ類に見られるもので、少なくともこの形質だけで種をわけるのは無理がある。ただし、 A. japonicus ezo の交尾器については検証が必要だろう。

なお、大陸産を別亜種 A. japonicus continentalis Guéorguiev, 1970 とすることもある。

Agabus matsumotoi Satô & Nilsson, 1990

マツモトマメゲンゴロウ

北海道でツヤマメゲンゴロウ Agabus congener (Thunberg, 1794) として知られていた種。A. (Acatodes) の種は一般的にオス交尾器中央片に亜先端突起を有するが、本種はこの突起が膨らみ先端が丸くなるという他種には見られない顕著な特徴を持つ。国内では北海道のみから知られるがサハリン南部にも分布する ( Nilsson and Kholin 1994 ) 。

Agabus rufipennis (Gschwendtner, 1933)

アカバマメゲンゴロウ

中根は疑問視しつつも、何度かこの種について日本からの記録があるとして触れている ( 中根 1964 , 中根 1989 など) が、恐らく Zaitzev (1953) において分布に "Japan" とあることからの引用と思われる。しかし同じ Zaitzev (1953)A. daisetsuzanus の記述に " Gschwendtner によると、この種は G. rufipennis に一致する " とあり、 daisetsuzanus = rufipennis と考えた結果分布に日本を加えただけかもしれない。実際 Nilsson and Hájek (2024b) では本種の分布に日本は入っていない。

このような経緯を鑑み当サイト内の 日本産ゲンゴロウ科一覧 に本種は含めていない。

Agabus affinis (Paykull, 1798)

オクエゾクロマメゲンゴロウ

日本産唯一の A. (Gaurodytes) で、現在国内で知られる生息地は北海道根室付近の高層湿原のみ。

海外では旧北区北部に広く分布することになっているが、日本周辺ではロシアのカムチャッカ半島、沿海州から知られる一方、サハリン ( Nilsson and Kholin 1994 ) 、千島 ( Nilsson et al. 1997 ) 、中国 ( Nilsson 1995 ) からの記録はない。国内でもそうだがこの地域での分布はかなり希薄なのかもしれない。

Ilybius Erichson, 1832

クロヒメゲンゴロウ属

全北区に 70種ほど分布する。 Nilsson (2000) によって、マメゲンゴロウ属の一部が本属に移され所属種数が倍増した。(日本産ではオオクロマメゲンゴロウが移された。)

日本産4種。サハリン、千島、沿海州、中国東北地方には、

  • I. chishimanus Kôno, 1944
  • I. cinctus Sharp, 1878
  • I. lateralis (Gebler, 1832)
  • I. opacus (Aubé, 1837)

等、類似種が多く分布する。

Ilybius anjae Nilsson, 1999

クロヒメゲンゴロウ

Ilybius nakanei Nilsson, 1994

ヨツボシクロヒメゲンゴロウ

クロヒメゲンゴロウは、

  • I. poppiusi Zaitzev, 1907

ヨツボシクロヒメゲンゴロウは、

  • I. ater (De Geer, 1774)
  • I. chishimanus Kôno, 1944
  • I. weymarni J. Balfour-Browne, 1947

といった学名が当てられ混迷していたが、双方ともサハリン産を基に新種として記載され決着した。

両種とも現在の日本では北海道でしか知られていないが、群馬県などで化石が見つかっており( 林 1996 など)、過去には本州にも分布していたらしい。

Ilybius apicalis Sharp, 1873

キベリクロヒメゲンゴロウ

水面に落ちていたハエの死骸を摂食する

日本産の本属の種は本種以外北海道にしか現存しないが、本種は北海道~九州、さらにトカラ列島まで分布し、記録の無い県はわずかしかない ( 森・北山 2002 ) 。一方、生息地での個体数は一般に多いものの分布にかなりムラがあり空白地点も多く、どのような要因で分布が制限されているのか不明。

Platambus Thomson, 1859

モンキマメゲンゴロウ属

全北区を中心として北半球に 70種近く知られる。日本産 9種。

Nilsson (2000) によりマメゲンゴロウ属の一部が本属に移され所属種数が大幅に増加した。日本産では当時知られていたクロマメゲンゴロウ類 4種が新たに本属とされた。

モンキマメゲンゴロウの斑紋退化型はクロマメゲンゴロウ類によく似ていてこの措置は妥当とも思えたが、 Ribera et al. (2004) による分子系統では全くまとまりがなく、特にモンキマメゲンゴロウを含むグループは他の全ての Agabini とかけ離れている。再検討は必須で、その際は再び狭義の Platambus に戻されるかもしれない。

Platambus convexus Okada, 2011

ニセモンキマメゲンゴロウ

北海道産をもとに記載され、その後東北地方、神奈川県、愛知県、さらに対馬からも記録された。記載から10年余り、その分布は思いのほか広いことが明らかになったが同時に極めて離散的であることも確からしくなってきた。

対馬からは 秋田・境 (2022) が記録しているが、その中で北海道や本州北部のものと比べて小型な個体が多いこと、オス交尾器形態にもやや違いが見られることを指摘している。

Platambus fimbriatus Sharp, 1884

キベリマメゲンゴロウ

Platambus pictipennis (Sharp, 1873)

モンキマメゲンゴロウ

Platambus sawadai (Kamiya, 1932)

サワダマメゲンゴロウ

キベリマメゲンゴロウ
夜間に姿を見せたキベリマメゲンゴロウ

これら 3種はいずれも河川に生息する流水性種として古くから知られるが、キベリマメゲンゴロウは平野の中下流域、サワダマメゲンゴロウは山間の浸み出し水が作った細流や渓流の流れが弱くなっている岸辺など最上流域に限定して見られる。これに対しモンキマメゲンゴロウはいずれの種とも混生しより広い環境に適応していると思われる。ただし具体的にどのような物理的要因がこうした棲み分けの由来となっているのかは不明 (→ 流水 )。

いずれも夜行性が強く、昼間生息地を訪れても遊泳や移動する姿を見ることは少なく、岸辺の石の下などに隠れている。夜間には姿をさらし活動しているのが観察できるがやはり光を嫌い、中でもキベリマメゲンゴロウは極端で光を当てると恐慌をきたし逃げ惑う。

3種とも日本周辺に分布が限られ、特にサワダマメゲンゴロウは日本特産とされる。

Platambus insolitus (Sharp, 1884)

コクロマメゲンゴロウ

沢の岸にできた小規模なたまり水のような環境に見られるが、のり面から浸み出し林道上を流れるわずかな水流に生息していることもある。偶然迷い込んだのかとも思われたが、複数の個体が見られ幼虫も確認できた。また異なる場所の同様な環境でも見ているので本種が本来的に好む生息環境なのだろう。

Platambus optatus (Sharp, 1884)

ホソクロマメゲンゴロウ

Platambus stygius (Régimbart, 1899)

クロマメゲンゴロウ

この2種は学名に紆余曲折があった。

Nilsson (1997) はクロマメゲンゴロウの学名として知られていた Agabus optatus のホロタイプ標本を調べ、四国から記載され長くホソクロマメゲンゴロウの名で呼ばれた Agabus miyamotoi Nakane,1959 はシノニムであることを明らかにした。ホソクロマメゲンゴロウと呼ばれた種の学名は A. optatus となり、一方クロマメゲンゴロウと呼ばれていた種は未記載種ということで Agabus nakanei Nilsson, 1996 と命名された。更にその後 A. nakanei は 中国から記載されていた A. stygius のシノニムであることがわかった。

学名と和名を一体視すれば optatus =クロマメゲンゴロウになるが、 森・北山 (2002) は和名は実体を表すものとして学名と和名をリンクさせず、 optatus の和名をホソクロマメゲンゴロウとした。

族 Platynectini

南米に小属が 3属あったが、Agametrus Sharp, 1882Platynectes Régimbart, 1879 の亜属になり、Leuronectes Sharp, 1882Agametrus のシノニムとされた。残る Andonectes Guéorguiev, 1971 もこれらとかなり近いようで、 Platynectes 1属にまとめられるかもしれない ( Toussaint et al. 2017 )。

Platynectes Régimbart, 1879

ヒラタマメゲンゴロウ属

主に東洋区、オーストラリア区、新熱帯区に分布し、旧北区にもわずかに生息する。世界に 約90種。

以下の 4つの亜属に分けられる。

  • P. (Agametrus) Sharp, 1882
  • P. (Australonectes) Guéorguiev, 1972
  • P. (Gueorguievtes) Vazirani, 1976
  • Platynectes s. str.

このうち旧北区、東洋区に分布するのは、P. (Gueorguievtes) のみ。

日本産は 1種だが、不明種 2種が記載されている。

Platynectes chujoi Satô, 1982

アトホシヒラタマメゲンゴロウ

西表島から記載され、石垣島、与那国島にも分布する。現在のところ日本固有種と思われるが中国山東省から近似の Platynectes rihai Šťastný, 2003 が知られている。

Platynectes deletus Régimbart, 1899

ホソヒラタマメゲンゴロウ

"Japon?" と書かれた1♀で記載されたがその後海外を含めて記録が無い。タイプ標本も行方不明らしく、不明種としかいえない。

Platynectes dissimilis (Sharp, 1873)

ヒラタマメゲンゴロウ

日本から採集されたという3♀で記載されたがその後の国内での記録は無く、ラベルミスと考えられている。現在知られる分布は中国南東部。

なお以前は分布に台湾も含められていたが、その後近縁の別種とわかり Platynectes gemellatus Šťastný, 2003 の名で記載された。

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