ゲンゴロウ科
ゲンゴロウ亜科 Cybistrinae
従来ゲンゴロウモドキ亜科に含められてきたが、最近の系統解析によって亜科を分けられた ( Miller and Bergsten 2014 ) 。ただしそれによるとツブゲンゴロウ亜科がゲンゴロウ亜科の姉妹群になり、ゲンゴロウモドキ亜科よりも系統的に近いという意外な結果になる。こうした結果は成虫、幼虫の形態に基いた解析 ( Michat et al. 2017 など) と一致しないので更なる研究によって再び見直される可能性もある。
このグループの幼虫には頭部前縁に三叉する突起があり種ごとに様々なパターンを示し同定のキーにもなる。種によっては鋭くとがるこの突起は恐らく大顎で捕えた獲物を保持するのに役立っているものと思われる。
Cybistrini 1族。
族 Cybistrini
世界に12属。オーストラリア区で分化が進んでいて 4つの固有属が記載されている。また新熱帯区では最近になって分類が見直され 7属が分布することになっているが、まだ検討が必要という ( Miller et al. 2024 )。
体長 ~15mm 以上の中大型種で構成され、富栄養な止水が主な生息地だが、オーストラリア固有の Austrodytes Watts, 1978 は低水温の流水域に見られるという。
Cybister Curtis, 1827
ゲンゴロウ属
世界の低緯度地域を中心に 100種ほど分布するが南米では近縁の Megadytes Sharp, 1882など他属が優先する。
Miller et al. (2007) によると 4亜属に分けられる。
- Cybister s. str.
- C. (Megadytoides) Brinck, 1945
- C. (Melanectes) Brinck, 1945
- C. (Neocybister) Miller, Bergsten & Whiting, 2007
日本産7種。クロゲンゴロウ、トビイロゲンゴロウが C. (Melanectes) で、残りは Cybister s. str. 。
Cybister chinensis Motschulsky, 1854
ゲンゴロウ
北海道~九州、ロシア沿海州、朝鮮半島、中国に分布するが東南アジアにはいないらしい。また、南西諸島では屋久島の古い記録が見らるのみだが、台湾には分布する。また本属としては唯一北海道に進出していて耐寒性の高さが暗示され、高標高の生息地も知られる。一方、サハリン、千島からの確実な記録はない。
学名は長く C. japonicus Sharp, 1873 が使われたが、 Nilsson and Petrov (2007) によって上記が有効名とされた。原記載地は北京。
通常は Cybister s. str. に含められるが、メス後肢遊泳毛の特徴から、旧北区に広く分布する Cybister lateralimarginalis (De Geer, 1774) と共に亜属を分けられることがある。 Nilsson (2001) では C. (Scaphinectes) Ádám, 1993 が当てられている。
Cybister lewisianus Sharp, 1873
マルコガタノゲンゴロウ
国内では本州、九州、海外では中国、韓国、東南アジア、インドとされるが、インドの記録は恐らく Sharp (1882) に "Assam" とあるのが唯一と思われ、最近の国内の図鑑では分布から外されている。東南アジアに関しては Regimbart (1899) に "Tonkin:Hanoi"、 Zaitzev (1953) に "Vietnam"、 Vazirani (1977) に "Indonesia" とあるが近年の記録は見当たらずやはり分布に疑問が残る。原記載地は "Mino, near Osaka" で恐らく大阪府箕面。
国内のものは体下面の大部分が黄褐色で韓国産も同様のようだが中国産は後胸、後基節の一部が赤褐色の他は黒色になるらしい ( Jiang et al. 2023 ) 。こうした傾向は Sharp (1882) でも指摘されている。
Cybister limbatus (Fabricius, 1775)
フチトリゲンゴロウ
Kamiya (1938) 等に既に記述があるように南西諸島での生息は古くから知られていた。但し、 佐藤 (1984b) によってヒメフチトリゲンゴロウが記録されるまで国内における両種は混同されていたものと思われる ( 中根 1993 ) 。
一方、本種の国外での分布は中国南部、東南アジア、南アジアとされるが、似たような分布を示し体形、色彩も酷似した Cybister guerini Aubé, 1838 という種が知られている。両種はオス交尾器で明瞭に識別できるようだが、やはり過去に混同されてきたようでタイプ標本の精査が必要と指摘されている ( Hendrich and Brancucci 2013 , Jiang et al. 2023 ) 。日本産は当初から常に C. limbatus とされてきたが疑問も残ることになる。
国内の生息地ではほぼ絶滅状態でいくつかの研究室、施設で生息域外保全が行われている ( 北野 2021 ) 。
Cybister tripunctatus lateralis (Fabricius, 1798)
コガタノゲンゴロウ
C. tripunctatus (Olivier, 1795) はアフリカからユーラシア南部、オーストラリア、西太平洋の島々に広く分布するとされるが、変異の大きな種で多くの学名が付けられてきた。 Nilsson and Hájek (2024a) ではこれらを 4亜種にまとめ、日本産に対して長く使われてきた C. tripunctatus orientalis Gschwendtner, 1931 も上記学名のシノニムとしている。ただし上記の通り大きな変異が見られるので分類については包括的見直しが必要だろう。
国内では1980年代中頃までは普通種と思われていたが、普通種の常で南西諸島など一部を除いていつの間にかいなくなっていた。それが 2010年代に入って記録が増え、事実上絶滅したと思われていた近畿や北陸、関東でも発見された。減った原因は簡単に農薬や開発のためとされたが、それらが原因だったのならここにきて増えている説明ができない。また分布拡大の要因として気候温暖化が取り沙汰されることもあるが、温暖化する以前に確実に分布していた地域に戻ってきているだけの現状では、やはり説得力が足りない。
国内では北海道を除く各地に分布するとされてきたが東北地方からは標本の確認できる記録が見当たらないようで、 中島ほか (2020) は分布を関東以西としている。
同様に、戦前からその分布が知られていた朝鮮半島だが近年の記録が無いようで、 Lee and Ahn (2018) では韓国からの過去の記録を全てマルコガタノゲンゴロウの誤同定として処理し、ファウナに含まれる可能性にも言及していない。また、 Nilsson and Hájek (2024b) , Jiang et al. (2023) でも朝鮮半島は分布エリアに含めていない。
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