基礎ゲンゴロウ学

ゲンゴロウ科

種名索引

セスジゲンゴロウ亜科 Copelatinae

以前はヒメゲンゴロウ亜科に含められていたが、セスジゲンゴロウ属幼虫の特徴から亜科を分けられた。しかし他属の幼虫は不明で本当にグループ全体に共通する形質なのか疑問が残り、系統解析では単系統性に否定的な結果 ( Ribera et al. 2008 ) 、肯定的な結果 ( Miller and Bergsten 2014 ) と見解が分かれている。より多くの材料を使った研究が待たれる。

Copelatini 1族。

族 Copelatini

9属に分けられている。熱帯から亜熱帯にかけて広くそして多くの種が分布する。ヨーロッパの Liopterus Dejean, 1833 を除くと日本は分布の北限近くになる。

ブラジルから 1種、オーストラリアから 2種の地下水性種が知られ ( Caetano et al. 2013 , Balke et al. 2004 , Watts and Humphreys 2009 ) 、マレーシアからも同様の種が見いだされた ( Balke and Ribera 2020 ) 。

日本産はセスジゲンゴロウ属のみとされてきたが、コセスジゲンゴロウが別属に移された。

Austrelatus Shaverdo, Hájek, Hendrich, Surbakti, Panjaitan & Balke, 2023

コセスジゲンゴロウ属

主にオーストラリア区に分布する種から成るが、一部はインドネシア、更にインド、中国、日本にまで隔離分布している。62種で記載されたがまだ未記載種があるという ( Shaverdo et al. 2023 ) 。

Austrelatus parallelus (Zimmermann, 1920)

コセスジゲンゴロウ

1920年に "Setsu" (摂津?) から 1♂で記載された後は 1944年に 1♀が淀川で採集された ( 大倉 1957 ) のみで長年幻の種であった。2000年以降、滋賀県、京都府から再発見され琵琶湖・淀川水系の固有種とも思われたが、最近になって韓国甫吉島 ( Jung et al. 2020 ) 、中国⸺湖北省、湖南省、上海市 ( Jiang et al. 2022 ) からも発見され希薄ながら東アジア南東部に広く分布しているらしい。

Copelatus Erichson, 1832

セスジゲンゴロウ属

主に熱帯域から 440種余り知られるゲンゴロウ科最大の属。日本からは 13種が記録されている。

日本産はいずれも上翅に明瞭な条溝を具えるが、海外には条溝の無いグループもある。また、この条溝はゲンゴロウモドキ属やメススジゲンゴロウ属と異なりメスだけでなくオスにも存在して、今のところ例外は無い。

Sharp (1882) はこの条溝が何本あるかによってグループ分けを行ったが、 Balke et al. (2004) の分子系統によると条溝の本数と系統に相関は認められず、近縁の種でも全く違う例も見られた。また、 Manuel et al. (2018) は同一種内での条溝本数の変異を報告していて、この形質が系統を反映するほど安定したものではないことを示している。

幼虫は鋸歯状の大顎と素嚢を持ち、大顎の導管を欠く。これらの特徴から他のほとんどのゲンゴロウ類幼虫と異なり咀嚼により固形物を摂食していると推定されている。

国内の本属の種は河川敷の水たまりなど常時水があるわけではない不安定な環境を好むものが多いとされるが、世界的には一般の小型ゲンゴロウ類が好むような多彩な環境で見られる。変わったところでは南米の Copelatus bromeliarum (Scott, 1912) など数種が ファイトテルマータ 種として有名。

Copelatus masculinus Régimbart, 1899

ヤエヤマセスジゲンゴロウ

C. imasakai Matsui & Kitayama, 2000 として八重山諸島から知られていたが Hájek et al. (2018) により上記学名のシノニムとされた。国外の分布は台湾、フィリピン、ボルネオ。

上翅第1条溝の前方 2/3が消失するのが特徴的。国内産は上翅基部が広く明瞭な黄褐色の帯になるのに対し、海外産ではこの帯が現れず上翅はほぼ一様に黒褐色という個体が多いらしい ( Hájek et al. 2018 )。

Copelatus nakamurai Guéorguiev, 1970

トダセスジゲンゴロウ

よく使われる和名のためか埼玉県戸田市で最初に見つかったかのように語られることが多いが、戸田市は C. hasegawai Satô, 1988 として記載された際の記載地で、この学名は上記学名のシノニム。原記載地は東京。

Copelatus tomokunii Satô, 1985

ナチセスジゲンゴロウ

田中 (2001) は、杉林林床にあるイノシシのぬた場周辺や林道の水の無い轍といった湿っている程度の環境において、落ち葉や小石の下から本種を多数採集した。その際、同所的にある水たまり中には少数しか見られなかったという。 (→ 陸生 )

Copelatus weymarni J. Balfour-Browne, 1947

ホソセスジゲンゴロウ

日本産の本属中最も普遍的な種といわれる。

三宅 (2002) は豪雨時に乾いた地面に見る間にできた水たまりに本種が泳ぎだしたのを観察している。

Copelatus zimmermanni Gschwendtner, 1934

チンメルマンセスジゲンゴロウ

似通った種が多い日本産セスジゲンゴロウ属の中で、上翅条溝が 10条と多く、細長い体型もあり少し趣きが違う。一般的な本属の種と異なり安定した水域を好むともいわれるが、文献によって記述が異なり実態は不明。

国内の主な生息地域は九州各地と山口県、南西諸島の中部以北だが、飛び離れて静岡県 ( 田比良・北野 2000 )、秋田県 ( 櫻井 1992, 佐藤 2004 ) からも知られる。海外では原記載地の中国浙江省、韓国済州島に分布し、国内の記録と併せるとチャイロチビゲンゴロウの分布パターンに似ている。離島での記録が多いこともあり海流による分散が暗示される。

ゲンゴロウ科

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